広島県三次市の丘陵地帯。三次東インターから車でわずか数分、南向きの斜面に広がるぶどう畑の向こうに、ワイナリーの建物が見えてきます。2021年に誕生した「Vinoble Vineyard & Winery(ヴィノーブルヴィンヤード アンド ワイナリー)」。ここで造られるワインは、わずか1年目にして英国の権威あるコンテストIWSCで世界最高得点の95点を獲得し、ゴールドメダルに輝きました。
アバンセのバイヤーがこのワイナリーを訪ねたのは、そんな快挙を成し遂げた醸造家・横町崇さんの哲学と技術を直接確かめ、お客様に本当に価値あるワインをお届けしたいと考えたからです。
実は、代表取締役の横町崇さんは、ワイン用の苗木生産も手掛け、自身でも畑作りからブドウ栽培、そしてワイン醸造、ワイナリー立ち上げのコンサルティングまで、ワインに関わる全てを熟知した稀有な存在です。

この土地に合った育て方で最高のワインを
初夏の陽射しが眩しい午前中、ワイナリーを訪ねると、ラフなTシャツ姿の横町さんが笑顔で迎えてくれました。早速、案内されたのは、ぶどう畑です。

「ワイン用のヨーロッパ系品種って、垣根仕立てが主流なんです。垣根仕立ては、針金と柱を用い、枝を地面と垂直方向に伸ばす仕立てのことです。でもうちでは、『棚仕立て』にビニール屋根を設置した『レインカット栽培』を採用しています」
棚仕立ては、日本の生食用ブドウ栽培に多く採用されている仕立てです。ブドウが棚の天面に広がるため、葉が地面に対して水平に広がっていきます。果実が目の高さになることで、きめ細かい手入れが可能ですが、一般的には、ワイン用のブドウには向かないと言われています。
理由は明確で、生食用のブドウは実を大きく、果汁を多くして食べ応えがあるものにしたい、一方でワイン用のブドウは、粒を小さく、皮を厚く、果汁量を少なくしたい。1房ごとに栄養分が行きわたりやすいのは棚仕立てです。ワイン用にするには、凝縮感が出しづらいのです。

「よく棚仕立てと垣根仕立てとで議論するとき、棚仕立てだと、味が薄まるっていう話になるんですけどね。そもそも生食用とワイン用のブドウでは、植栽本数が違います。ここでは、棚式でも高密植で栽培しています」
「高密植?」
「ヨーロッパの垣根仕立てと同じくらいの密度で苗を植えるんです。そうすると隣の樹との距離が近くなって、根が水分を吸い上げるときにストレスがかかる。適度なストレスが、果実の凝縮度を高めるんですよ」
なるほど、と頷きながら聞いていると、横町さんは続けます。
「それに、日本は雨が多い。湿気と雨は、大敵なんです。でも棚仕立ては、地面とブドウとの距離がある。雨が降ったあとに、地表の水分が蒸散しますよね。そのときに、地上面から離れていた方が、湿気の影響を軽減できます。その結果、病気にもかかりにくいというところが最大のメリットです」
垣根仕立ては、上に伸びるので、右から日が当たっているときは左には当たらないということが起こりますが、棚仕立てでは、葉が上を向くので、朝から夕方まで継続的に光を受けられるというのもメリットです。光合成効率は垣根仕立ての約2倍になるそうです。
「土地に合った栽培方法で、健全なぶどうを収穫することこそが、いいワインを造るために一番重要なんです。ヨーロッパの真似をするんじゃなくて、日本の気候で最高のぶどうを育てる。それが僕らの挑戦です」
日本の気候に適応しながらも、品質を妥協しない。その姿勢が、世界で認められるワインを生み出す原動力なのですね。
徹底した衛生管理——「排水溝を見れば、ワイナリーのレベルがわかる」
畑を後にして、醸造施設へと足を踏み入れます。ひんやりとした空気が心地よく、整然と並んだステンレスのタンクがやけに輝いていました。

「だいたいワイナリーに行って、このワイナリーの衛生レベルを見ようと思ったら、排水溝を見るのが一番早いんですよ」
横町さんは足元を指さしながら、そう言いました。見ると、排水溝もピカピカ。カビひとつ見当たりません。

「だいたいのところが地面は生のコンクリートなんですね。それだと、水を通すし、黒カビが生えたらもう中までいってしまうんで・・・。うちは排水溝から壁の腰壁、棚まで、すべてステンレスです」
「野生酵母を使う、いわゆる天然酵母で発酵させるワインもありますが、酵母というのは樽かブドウに付いてきます。だからここでは、余計な菌は付けたくないんです。」
器具の洗浄も徹底しています。アルカリ性洗剤でタンパク質汚れを分解し、酸性洗剤で水垢を除去して中和。さらにクエン酸に過酢酸系の殺菌剤を混ぜることで、強力かつ持続的な殺菌効果を得ているのだとか。
今(見学時)は、靴で入らせてもらいましたが、実際の仕込み前は、置いてあるものは全て出して高圧洗浄機で洗浄し、とにかく清潔を保っているそうです。

建物の外には、今日出したばかりという木樽が並んでいました。また今年の秋に次のワインになる果汁を入れるための準備です。これも中を高温高圧洗浄し、乾かした後で硫黄で燻蒸するそうです。

こうした作業(樽を運ぶ仕事も!)ほぼお一人でこなしているという横町さん。すごすぎます!!
そして貯蔵庫へ。ここは瓶詰を待っているワインが貯蔵されています。スパークリング、斜めに寝かされた無数のボトルが並んでいます。スパークリングワインの瓶内二次発酵を行っているセクションです。

「うちのワインの特徴は『濁らない』こと。ある意味、世間の流行りとは真逆かもしれませんね」
確かに昨今、自然派ワインの人気とともに、濁りのあるワインも増えてきました。しかし横町さんの考えは違いました。
「濁りによって、品種個性以外の味や香りを出したくないんです。伝えたい香りにピントを合わせるイメージで、濁りを取っている。品種の個性をくっきりと強調させたいんですよ」
「スパークリングは瓶内二次発酵という伝統的な製法で造っています。シャンパーニュと同じやり方ですね。瓶の中で二次発酵させると、当然、酵母の澱が出る。それを取り除くための作業をコツコツとやるんです。」
横町さんは、斜めに寝かされたボトルを指さします。
「これが『ルミュアージュ』、日本語で動瓶といいます。毎日少しずつボトルを回転させて傾けていって、澱を瓶口に集めるんです。時間はかかるんですけど・・・ここでは、シャンパーニュのやり方に倣っています」
ルミュアージュは、瓶内のオリを瓶口にゆっくりと集めるために数日ぐるぐると瓶を回し続ける作業のことですが、手作業では1日にそう多くは作業できません。
澱が瓶口に集まったら、最後の工程が「デゴルジュマン」、澱引きです。
「瓶口の部分を氷点下の塩水に浸けて凍らせて、澱を固める。それから栓を開けると、瓶の中の圧力で凍った澱が氷の塊となって飛び出すんです。これで澱のない、クリアなスパークリングワインになる」
聞いているだけで、気の遠くなるような作業です。
「もっと簡単な製法もあるんですよ。タンクで二次発酵させて、そのまま濾過して瓶詰めする方法。これなら大量生産できるし、コストも安い。でも、瓶内二次発酵で造ると、酵母が長い時間かけてゆっくり発酵するから、きめ細かい泡と複雑な味わいが生まれるんです」
瓶詰め工程でも徹底した酸化防止対策を行っています。
「空の瓶に窒素ガスを吹き込んで、酸素を追い出す。それからワインを充填して、コルクを打つ前にもう一度バキュームで空気を抜いて、窒素ガスを吹きながらコルクを打つ。ヘッドスペースも全部ガス置換するんです」
なぜそこまで?
「酸化を防ぐためです。酸素が残っていると、ワインの繊細な香りが損なわれる。せっかく時間をかけて造ったワインの品質を、最後の瓶詰めで落としたくないんですよ」
G7広島サミットで使用されたことで需要が高まったスパークリングワインですが、この手間のかかる製法では、生産量を急に増やすことはできません。
「1本1本、手作業で動瓶して、澱を取り除く。だから時間がかかる。でもこのやり方だからこそ、品種の個性が際立つクリアなスパークリングワインになるんです」
自分が信じるワイン造りを貫く、そんな横町さんの姿勢に何度目かの感動を憶えました。
未来を見据えて——広島の多様性をワインで表現
取材を終えて帰る前に、横町さんは広島県全体の可能性について語ってくれました。
「広島って、北部は積雪2メートルに達することもあるし、南部は瀬戸内の温暖な気候。同じ県内でも全然違うんです。北ではリースリングなどのドイツ系品種、南ではアルバリーニョなどの海洋性気候に合う品種を栽培して、広島県全体の魅力をワインで表現したい」
そして、ワイナリーの未来についても。
「8月末からの収穫期には、ボランティアを募集しているんです。敷地内の古民家をリノベーションして宿泊できるようにしてあって、夜はバーベキューやビール、ワインを楽しめます。ワイン造りって、農業なんです。畑に来て、ぶどうに触れて、その過程を体験してもらいたい」
——アバンセがお届けする、情熱のワイン
ヴィノーブルヴィンヤードの取材を通じて感じたのは、横町さんの揺るぎない情熱と、妥協のない技術へのこだわりでした。日本の気候に適応しながら世界レベルのワインを造る。その挑戦は、まさに日本ワインの未来を切り拓くものです。
アバンセでは、この横町さんの想いが詰まった特別なワインを、限定販売しています。世界が認めた三次のワインを、ぜひご自宅でお楽しみください。

横町さんのもう一つの顔にもフォーカスしてみました。こちらの記事もぜひお読みください。


