「日本はどの国にも負けないくらい食材に恵まれている」……これは、私自身も感じています。それでも仕事のあとで料理をするのは、ちょっと辛いなと思う日もあります。そんなとき、日本橋にある「LA BONNE TABLE(ラ ボンヌ ターブル)」の中村和成シェフの著書に出逢いました。「仕事終わりの20分フランスごはん 一流シェフの、おうちワンプレート」です。食べることだけでなく、料理をすることも楽しく感じさせてくれる一冊。今回は著者、中村和成シェフにお話をうかがいました。
友美「仕事終わりの20分フランスごはん 一流シェフの、おうちワンプレート」の出版、おめでとうございます。



ありがとうございます。



今日はシェフのランチコースもいただきました。味、食感、香り、彩り……と、全身で楽しめる内容でした。「家でもフレンチが簡単にできる」なんて魅力的です。でもタイトルに掲げられた「20分」という言葉は、“時短”の意味ではないんですね?



「20分」は、「すぐできる」という意味ではないんですよ。食材の香りや鮮度をいちばん引き出せる時間——作りはじめてから20分くらいが、ちょうど料理が“おいしくなる瞬間”なんです。



料理の「旬」ですね。



そうです。食材に旬があるように、一皿の料理にも、いちばんおいしい瞬間があるんです。味や食感だけでなく、香りも……香りの立ちはじめる瞬間と、余韻を楽しめる瞬間とがありますよね。
このインタビューの前に、シェフのお料理をいただいていた私は「なるほど」と思いました。コース仕立てで提供された一皿ずつに、色や食感、香りの異なる食材が使われていましたが、一体感があったからです。そうした繊細な仕事を家庭で私たちが再現するのは難しい——それはプロフェッショナルの領域です。けれどこの「仕事終わりの20分フランスごはん 一流シェフの、おうちワンプレート」には、中村シェフが大事にされているエッセンスを取り入れやすい形にしたレシピがギュッと詰まっています。


中村和成著
KADOKAWA
本体1,900円+税
調理の基本より、「料理」の基本
私は「切る」ことについてたっぷりお話を伺いたいと思っていました。というのも私は料理の基本は「切ること」だと考えているからです。切り方次第で、加熱時間も異なります。火の通り具合、味のしみ込みやすさ、最終的には盛り付けの姿にも影響します。中村シェフは、どんな風に考えて、その日の食材を切っていらっしゃるのでしょうか。



実は私、自宅に包丁が32本あるんです。数日前に数えたら、切る道具全体では86個ありました(笑)。



86個! それはすごい。僕は自分のことを「一番ズボラ」だと思っているんです。約20年かけて集めた包丁も、今はほとんどスタッフにプレゼントしてしまって……それで、スタッフが研いでくれるわけですね(笑)。



自分で研がなくてもいいという仕組みを作られたわけですね(笑)



手元にはペティナイフ、牛刀、筋引きの3本。でもこれだけあれば、ほぼ全ての作業が完結します。



まな板との相性もありますよね?



僕がYouTubeで使っている黒いまな板は、実は撮影用なんです。安定感があって大きく動かせること、包丁とのフィット感が良いまな板です。でもお店では用途ごとに使い分けていて、魚用・肉用とは別に、仕込み用と営業用も区別しています。仕込み用にはあえて白いまな板を使うんですよ。汚れが目で見てすぐわかるので、衛生管理が徹底できるんです。



なるほど。おいしさの前に、安全に作られたものをお客様に安心して食べていただけることが大前提なのですね。



そうです。僕はどちらかというと、盛り付けよりも料理を先に考えます。「食べやすいこと」が最終的には料理のおいしさに直結すると思っています。だから、切るときに、硬い食感の食材は小さめに、加熱で縮むものは少し大きめに、火入れ後の状態をイメージしてカットしています。



レモンはどのように切るようにしていますか? 主役になることはないけれど、彩り、香り、味の点でかなり登場する頻度が高いと思うのですが。
(※ここでレモンを話題にしたのは、私が広島出身ということもあります! 広島県はレモンの生産量が全国一)



レモンは、その用途によって全然違いますね。同じ香りをつけたい場合でも、ゼスターという黄色い部分だけをすりおろすような道具を使うこともありますし、香りが出る瞬間を楽しんでもらいたいときは、ちょっと噛んでもらうようにします。薄く切って、それを線状にして、食べるときに自然と噛む動作をしてもらえるようにするんです。
「切ること」は、確かに調理の基本ではあるけれど、料理には食べる人がいます。おいしい料理には、「安心して食べやすいように」という心遣いが添えられているものですね。さらに、「見た目を楽しむ」「香りを楽しむ」「噛んで楽しむ」というふうに、中村シェフの作るお料理には、たくさんの楽しみ方があることに気づきました。デザートもどんなお楽しみが隠れているだろう? と、宝物を探すような気持ちでスプーンが進みました。


ちょっとした工夫で満足感がアップする!



ご著書の124・125ページに載っている「豚肉と牡蠣のムニエル レモンオイル」というレシピがありますね。実はこのレシピは、広島県の得意な食材ばかりが使われているので、ぜひ作ってみたいと思っています。



このレシピは実は「ずるい料理」を作りたかったんです(笑)。牡蠣だけでは物足りないと感じるときに、相性の良い豚肉を合わせることで満足感を高める効果があるんです。



そうそう。牡蠣って……贅沢に使えないということもありますが、家で食べるのに1粒、2粒だと、ちょっぴりもの足りない気がしていたんです。



オイスターソースで豚肉を炒める料理があるように、牡蠣と肉の相性は経験則として確立されているので、そこに乗っかりました。
相性が良いことは知っていても、私には薄い豚ばら肉で牡蠣を巻く……くらいの発想しかありませんでした。ケッパーが使われていますが、これは広島菜漬け(日本の三大漬物のひとつで、これも広島の特産品!)の古漬けを一緒に巻くという料理を作ったことがありました。古漬けは、うま味と酸味があって、すごく合うのです。食材や味の組み合わせ……という点ではシェフと同じ! だけど、できあがったお料理は、まるで違いました。なるほど、こういうところがプロの視点だよなぁ、としみじみ。



付け合わせの野菜も、メインの食材に合わせて考えていらっしゃるのですか?



店では1日に100人規模のお客様をお迎えするので、それなりの準備をしておかなければなりません。その中で季節感をどこで表現するかというと、付け合わせの野菜なんです。その季節に食べる意味のある味付けと組み合わせを考えています。



ここで、本日私がいただいたお料理の一部をご紹介します。テキパキと動くスタッフの皆さんと中村シェフの姿をぼんやり眺めつつ・・・目の前に届く一皿を楽しみに待つ時間がとても幸せでした♡






「仕事終わりの20分フランスごはん 一流シェフの、おうちワンプレート」本当の楽しみ方
今回の著書「仕事終わりの20分フランスごはん 一流シェフの、おうちワンプレート」は、多くがワンプレートメニューとして紹介されていますが、付け合わせのレシピがとてもありがたいのです。「コールスロー」や発酵要らずの「ザワークラウト」、ニンジンのラぺやナムルなど、作り方は知っていたはずだけど、それだけを作ることは、あまり魅力的に思えませんでした。
ところが、この中村シェフのレシピで、ワンプレートに盛り付けられていると、何でもないと思っていたキャベツやニンジンの付け合わせが、不思議と魅力的に思えてきます。実際、私は毎日のように、付け合わせのレシピだけをピックアップして、作っています!
「食材」の組み合わせだけでなく、味をつけたもの同士の組み合わせ、日本の食材とフランスの調理法、家庭の技とプロの技、ちょっと贅沢に思える食材とリーズナブルな食材の組み合わせ・・・レシピの中にいろいろな楽しみ方が散りばめられていることが分かりました。
ぜひ、どんな楽しみが隠されているのか!?を探し当てるような気持ちで、読み進めてみてください。その楽しい発見が皆さんの今日のごはんを一層、おいしくしてくれるはずです。














