スーパーの棚やお土産売り場で、ごく当たり前に見かける「味付ちりめん」。実はこの商品を最初に生み出したのが、広島県尾道市の老舗福利物産株式会社だということをご存知でしょうか。今回は、全国区の人気商品となった味付ちりめんの誕生秘話と、直営店「北前亭(きたまえてい)」の魅力をご紹介します。

そもそも「ちりめん」とは?生しらす・釜揚げしらすとの違い
味付ちりめんの話に入る前に、まずは原料である「ちりめん」について整理しておきましょう。
ちりめんとは、カタクチイワシなどの稚魚を茹でて乾燥させた食品のこと。同じ稚魚でも、加工の段階によって呼び名が変わります。
- 生しらす:水揚げしたそのままの状態
- 釜揚げしらす:茹でた状態
- ちりめん(ちりめんじゃこ):茹でた後、乾燥させた状態
稚魚は鮮度の落ちるスピードがとても速く、多くは水揚げした漁港で漁師さんたちの手によって「一次加工」が施されます。広島では、この3つの状態すべてを美味しく味わえるのですが、これは全国的にはとても恵まれた環境。カタクチイワシが豊富に獲れる瀬戸内海の恵みがあってこそ、なのです。

ちりめんができるまで|安全な商品化を支える選別技術
ちりめん作りの大変さは、鮮度管理だけではありません。網ですくって漁をするため、目的の稚魚以外のものも一緒に入ってしまうのです。

たとえば別の種類の小魚や、時には小石やガラス片といった異物、さらにはエビやカニの赤ちゃんまで。エビ・カニは食物アレルゲンでもあるため、除去には特に注意が必要です。
そこで活躍するのが専門の選別会社。何度も選別機を通し、最後は人の目で丁寧にチェックする——そんな地道な作業を経て、ようやく安心して食べられる「ちりめん」が食卓に届きます。無味のちりめんを作るだけでも、これだけの手間がかかっているのです。

味付ちりめんは意外と難しい|家庭料理と商品化の違い
「ちりめん山椒みたいな佃煮なら、家でも作れそう」——そう思う方も多いでしょう。確かに、家庭のフライパンで作る少量なら難しくありません。
しかし商品として大量生産するとなると、話はまったく別。無数の小さな稚魚一粒一粒に、ムラなく味を染み込ませる技術は、想像以上に高度なものなのです。
味付ちりめんを生んだのは尾道の老舗「福利物産」
この味付ちりめんを日本で初めて商品化したのが、尾道市に本社を構える福利物産株式会社です。

創業1786年|北前船の寄港地・尾道で育った海産物問屋
福利物産の創業は江戸時代中期の1786年。当時の物流の主役は船で、大坂(大阪)へと物資を運ぶ西回り航路の主役として活躍したのが「北前船」でした。尾道はその重要な寄港地として大いに栄えた港町です。
北前船で運ばれてきたのは、瀬戸内海では獲れない昆布をはじめとする珍しい海産物の数々。福利物産はこれらを扱う海産物問屋として大きく成長していきます。やがて陸上輸送が主流となる時代を迎えると、自ら産地まで足を運んで買い付け、全国に販売するスタイルへと事業を進化させました。この過程で培われたのが、海産物の品質を見極める確かな目利き力です。
六代目社長が考案|1980年頃に誕生した画期的な商品
味付ちりめんが誕生したのは1980年頃のこと。六代目社長・福島輝忠氏が、ちりめんの豊漁を機に、古い文献からヒントを得て考案・商品化に成功しました。
画期的だったのは、原料の鮮度と品質にこだわり、素材そのものの味を活かす味付けにした点です。当時、味付けをしたちりめんといえば漁師のまかない程度のもので、「味を付けるのは、鮮度が落ちた原料をごまかすため」というのが業界の常識でした。福利物産はこの発想を根本から覆したのです。
「本当に美味しい」と評判は瞬く間に広がり、全国のお客様からの声に応える形で、早くから通信販売もスタート。まさに味付ちりめんのパイオニアといえる存在です。
職人の手作業で仕上げる、味付ちりめんの製造現場
ちりめんは、獲れる場所や海水温といった些細な条件で味が変化するデリケートな食材です。福利物産では創業当時から、原料の水分量や塩分濃度を毎回細かく分析し、その都度、調味料の配合を決めています。糖度計を使って甘さも厳密に確認するという徹底ぶり。

そして注目すべきは、ちりめんと副材料を混ぜ合わせる工程がすべて手作業であること。どれほど大量になっても機械には頼らず、職人の手で混ぜたほうが味が良く仕上がるといいます。熟練の職人は手の感触だけでちりめんの状態を見極められるというから、驚かされます。

尾道の直営店「北前亭」と広島駅で買えるお土産情報
味付ちりめんを実際に手に取ってみたい方には、尾道の直営店「北前亭」がおすすめです。定番の味付ちりめんはもちろん、鯛味・穴子・昆布・しそなど、種類豊富なオリジナル商品が並びます。

遠方の方や旅行のついでに購入したい方には、広島駅のお土産売り場でも購入可能です。
県外の方への手土産や、日頃お世話になっている方への贈り物にぴったりです。オンラインの通信販売にも対応しているので、自宅にいながら本場の味を取り寄せることもできます。

まとめ|郷土の味を次世代へつなぐために
昨今は原料のちりめん自体が獲れにくくなっているという課題もありますが、鮮度・品質ともに厳選された原料に絶妙な味付けを施す、この技術は今も脈々と受け継がれています。
「たかがちりめん、されどちりめん」。広島が誇るこの名産品を、県外の方への手土産として、あるいは大切な人への贈り物として選ぶこと。私たち一人ひとりが「郷土の味」として意識して手渡していくことが、この文化を次の世代へつないでいく確かな一歩になるはずです。


